005:全児童対策事業が導入されると、「学童保育」はどう変わるか? 〜江戸川区「すくすくスクール」の事例から

オピニオン005

平成25年度4月より、板橋区は全児童対策事業「(新)あいキッズ」の導入を発表しました。

これにより、板橋区の従来の「学童クラブ」は、「(新)あいキッズ」に吸収・一体化される形となります。これは、約10年前の「すくすくスクール」導入時の江戸川区と、同じ状況と言えます。(むしろ板橋区は、「学童(保育)」「学童クラブ」という言い方を完全になくしています。
※詳細は板橋区のHP「放課後対策事業・あいキッズ」でご覧ください。

この板橋区の発表を受けて、板橋区の保護者には、「学童クラブの機能はどうなるのか」という、不安と反対の動きが出ています。そして、全児童対策事業において前例となっている江戸川区の私達保護者に対して、保護者が集まる機会で、「すくすくスクール」の現状の説明をして欲しいとの依頼がありました。

この文章は、板橋区の保護者に向けて私たちがお伝えした内容を、わかりやすくなるよう説明等を補足し、文章に起こしなおしたものです。

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私は、江戸川区「すくすくスクール」、学童クラブの児童保護者です。

板橋区における「学童」「あいキッズ」「新あいキッズ」といろんなシステムの違いが紹介され、多少勉強してきた私でも混乱するところですが、簡単に申しますと江戸川区のやり方は、「学童クラブ登録」「一般登録(すくすく登録)」の名前の違いを残しながら、やっていることは板橋区が導入しようとしている「新あいキッズ」と同じです。

つまり学童の子どもも、それ以外の一般の子どもも、同じ指導員、同じ場所でまとめてやろうというものです。

■1 全児童対策事業の導入で、「保育」の要素は消えていく

「新あいキッズ」「すくすくスクール」のような「全児童対策事業」に学童保育が吸収されてしまうと、どうなるでしょうか?

端的に言えば、「保育」の要素が消えていきます。

例えば、まだ自分の問題を自分でうまく表現できない小さい子ども、その子どもが持っている問題を解決するには、大人の方から働きかけてやらないとそのとき問題を解決してやれない…例えばそういう丁寧なコミュニケーションを「学童“保育”」の一つだというなら、それは「全児童対策事業」の下では、よほど指導員を増員しないかぎり「無理だ」ということです。

保護者の方が子どもの様子に気づき、「これはおかしい」というようなことを問い合わせて、それに指導員が答えるということは可能でしょうが、「保育」ということはできないということです。

■2 「教育委員会」の管轄に入り、一般区民の手の届かないところで物事が決まって行く

それから全児童対策事業に移行したとき、もうひとつ重大な問題は、「教育委員会」の管轄に入ってしまうということです。

教育委員会は、たとえば江戸川では保守党の推薦、区長の推薦、そういう方が区民の直接の承認を得ることなく知らぬ間に選出され、委員になっています(注1)

そういうふうに選任されたごく少数の人たちの密室的な会議(注2)だけで、すくすくスクール、学童保育に関する大事なことまでがみな、決まって行きます。

これによって、区民の声が反映されることが非常に難しくなります。例えばこれが「厚生課」とかそういうところの事業であれば、少なくとも区議会で審議されます。こちらなら、まだ少しオープンなところです。

江戸川区で廃止された学童保育のおやつを復活させたいと、様々な保護者が江戸川区教育委員会に陳情を提出していますが、その一つが先週、また不採択になったそうです。この不採択のプロセスで、誰が、どういう発言をしたかについては、のちほどご紹介します。

■3 全児童化を進める際の、行政の「説明」の共通点とは

江戸川区は板橋区と違い、すくすくスクール内に「学童(クラブ)登録」という名前は残しているという点は違います。しかし共通する点は、事業開始にあたって全児童対策への移行の利点を、行政は以下のように説明している点です。

全児童対策事業導入のメリット
・学童の子にとって、学童だけに囲い込まれず、一般の児童と交わる機会ができる。
・学校内で行われるため、児童館などへの移動がなく安全性が高い。
・学童保育の待機児問題を解消できる。(いわゆる「全入」)


それからもう一つの共通点が、事業の理念の説明などに「分け隔てない」というキーワードが使われている点でしょう。

学童保育を必要としている児童と、放課後の遊び場所を求める一般児童、この二つの群では必要とする支援内容が違うということは、学童保育当事者にならないと、なかなか理解しにくいところではあります。

しかし全児童対策事業に学童保育を吸収しようとしている行政が、必要な支援が異なる2群に対して、「分け隔てない」という表現を使うこと……それは、「平等」という倫理観を隠れ蓑にして、同じサービスしか提供しない、すなわち学童保育側への支援の切り下げを行おうとしているのではないかと、当然、保護者は警戒します。

■4 「分け隔てなく」「平等」で、失われて行くものとは

今からおよそ10年前の2003年、江戸川区では全児童対策事業「すくすくスクール」の導入に向け、まず区内一校で試験的に導入し、翌年度から順次全73校への導入を行っていきました。

その過程で、当然ながら学童クラブが吸収されることに不安を持った学童保護者は、江戸川区に説明を求めたり、陳情を提出したりという活動が行われました。

今私の手元に、そのときの江戸川区の説明会における「一問一答」の資料があります。当時の保護者が作成したものです。質問項目は多岐にわたり、「なぜ学童クラブがすくすくスクールに吸収されるのか」という基本的な疑問から、施設のこと(専用室、キッチン、休息スペースなどの有無)、指導員の配置、水分補給やおやつのこと、体調不良時の対応、長期休暇時の対応、卒室式や誕生会など行事の有無といった細かい点に及んでいます。

この中で、学童クラブの保護者か強い関心を持って質問をしているのが、子どもの「心のケア」です。子どもが、そこを「生活の場」として日々、心から安心して過ごすことができるかどうかです。

すくすくスクールになると、大勢の異なる子どもが毎日出入りするようになります。出入り自由、人数も変わる、そういう一般児童の安全対策なども心がけながら、学童保育の…この「保育」という言葉が重要なのですが…学童保育の「質」を保つということは、指導員の方々にとって相当に困難ではないかということは、容易に想像できるからです。

現在、私たちはホームページで、江戸川の学童保育を利用している方のご意見を募っております。そこには、失われた「保育」の要素に対する現実が、あふれています。今回はひとつひとつそれらのご紹介をする時間はございませんが、学童クラブが全児童に吸収されて失われていった保育の要素、生活の場所、指導員数の不足を感じるエピソードとして、次にひとつ、病時の対応をご紹介いたします。

■5 曖昧なままの「すくすくスクール化」で、子どもへのしわ寄せが出ている現実

すくすくスクールからの連絡で、「熱が出た」というので保護者が子どもを迎えに行くと、「喧噪の教室の床の上に悪寒に震える子どもがじかに寝かされており、寝具は何もなかった」という投稿を、複数の江戸川区立小学校の保護者からいただきました。

大勢の元気いっぱいの児童が、一室で一斉に遊んでいる状況の喧噪ぶり、これは容易に想像がつくでしょう。発熱の知らせに仕事を切り上げて駆けつけてみると、その喧噪の中で、顔色の悪いわが子が固い床にじかに寝ており、寝具は一切なく、タオルがかけられているだけだった時の保護者の心境とは…これは子を持つ親にとって、察して余りあるものがあると思います。

その背景には、すくすくスクールの実施ルーム以外に、「子どもを寝かせておける別室がない」「学校の保健室を借りるにしても、指導員が人数不足で付き添えない」などの理由で、仕方なく、すくすくスクール内の眼の届く場所(床)に寝かせる、そういう状況になってしまったということのようです。

先ほどの2003年すくすくスクール化の時の「一問一答」によると、「休息スペースはどうするのか」という保護者の質問に対して、江戸川区は「簡易ベットがあるのでそれを利用する。(学童専用ではなく)、すくすくスクール全体で共用する」と説明しています。

当時は、すくすくスクールには「簡易ベッド」がある、とのことですね。

さて10年が経過した今、確かにいまだに古い簡易ベッドが残っているすくすくスクールも、一部あるそうですが、現在ないところに対しては「すくすくスクールに簡易ベッドは必要ない」というのが江戸川区の見解であり、体調不良時は学校の保健室を利用するように、という案内のようです。

一方、ある学校関係者の方の発言として、「すくすくスクール活動時の学校の保健室の利用は、あまり有難くない」という話がありました。いったん児童が下校したら、それ以降の時間は学校の管理下を離れるのだから、特にけが病気等のトラブル時については保健室も含めて学校は関わりたくない、学校は関係ない、という認識を持っている学校管理職の方も少なくないようです。

導入時の江戸川区の説明と、10年後の現実がこれほど異なっているのは、そのあたりの整理が当初からできていないまま、すくすくスクール事業をスタートさせてしまったことから、児童にしわ寄せがいっている現実があると思われます。

このような病時の対応の他、「連絡帳」「おやつ」「長期休暇時のお昼寝」「保護者会」「行事」「学童クラブ便り」など、資料の項目一つひとつについて、すくすくスクールでその後どうなったかをお知らせしたいところですが、それは時間の関係で割愛します。

ともあれ江戸川区の現状としましては、保護者が当時恐れていたことが、まさに恐れていたようになってきたというのが現状、と言っていいように思われます。

特に「おやつ(補食)」につきましては、学童登録以外の食べない子に遠慮するということで、この10年間でおやつの実施時間は3時、4時、5時とどんどん遅くさせられていき、ついに平成25年度から廃止になりました。廃止理由として大きくとりあげられているのが、やはり「分け隔てない」というキーワードであることは、皆様ご存知のことかもしれません。
※経緯の詳細は「江戸川区・学童補食の継続を願う会」のブログに活動記録があります。

また「すくすくスクールは学校の施設を使うので、児童館への移動がないことが安全につながる」という説明もありますが、ずっと同じ学校内にいるため気持ちの切り替えができず、児童には心理的負担になるという意見も、一部にはあることを申し添えます。

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注1:教育委員会の構成員

江戸川区の場合、教育委員は5名。法令に基づき区長の推薦を受け、議会が承認する、となっている。


注1:教育委員会での審議と決定内容

江戸川区教育委員会の傍聴は可能だが、平日日中の不定期開催である。日程は、江戸川区ホームページ「教育委員会の概要」で公表される。

議事録は江戸川区ホームページにおいて公表されるが、会議開催日から2ヶ月〜4カ月後の公表であるため、区民が結果を目にする頃には、すでに物事が決定し進んでいることが多い。これらのことから、教育委員会で「すくすくスクール」や「学童」について何がどう話し合われ、どのような結論がでているかについて、平日の日中に就労している一般区民がリアルタイムに情報を得ることは、かなり難しいと言える。

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