005:全児童対策事業が導入されると、「学童保育」はどう変わるか? 〜江戸川区「すくすくスクール」の事例から

オピニオン005

■6 「学童クラブの子どもに配慮が必要という視点は、受け入れがたい」

先ほどもふれましたが、先日、江戸川区教育委員会に保護者から提出されておりました「来年からの補食事業再開の陳情」は、「1対3で不採択」となりました。その審議の過程で、教育委員会の統括に携わる立場の方がどういうご発言をされているかということを、ご紹介させていただきます。

江戸川区教育長発言
「(この保護者は)学童とすくすくは別でしょ?だから配慮してほしい」ということが言いたいのだろうが、「生活の場」というのは、私達はすくすくを立ち上げた時点で今までの学童とは違って、共に過ごす。遊びもあれば生活もある。そこで過ごすということ、一般の子と分け隔てなく過ごすことで学童登録の子どもの生活圏がひろがった。地域の方と関わって生活体験ができる。ということ。学童クラブの子どもなんだから(配慮が必要でしょ?)という視点にたった陳情は受け入れがたい」

そしてこうも言われています。
「補食ひとつを取り上げて児童福祉がどうかというのは、いかがなものか?」

■7 「すくすくスクール」は、本当に「遊び場」として利用されているのか?

さて、次に「遊び」の観点からお話しいたします。

全児童対策事業導入の際、学童の子どもにとっての利点として「一般登録の子どもと遊べる」ことなどを行政は強調していますが、もちろん一般登録の子どもは学童の子どもと遊んであげるために、全児童対策事業に来てくれる訳ではありません。

行政の「建前」は別として、私たち利用者は、そのような建前で用意された全児童対策事業が、本当に、一般登録の子どもたちも学童登録の子どもたちが喜んで集うような場所になっているのか?なっていくのか?ということについてしっかりと情報を収集し、矛盾があれば、事業の内容の改善を求める努力をしなくてはいけない、しなくてはいけなかったのだと思っています。

私的経験ではありますが、すくすくスクールの学童に通っている私の子どもは、常々「一緒に遊びたい仲のよい(一般の)友達は、すくすくスクールに来ない」と言っておりましたし、仲の良かった学童の子どもたちでも、学年が上がったり保護者が仕事を変わったりして学童を辞めると、すくすくスクールにはあまり来なくなる…という状況を聞いておりました。

おかしな話です。「すくすくスクール」は、学びと遊びの場であり、地域の方々との交流もあり、一般登録の子はもちろん放課後の居場所として、また学童登録の子にとっても生活圏が広がるという、大変魅力的な場ではなかったでしょうか。そんな魅力的な場所に、なぜ皆、来なくなるのでしょう?

一方すくすくスクールのホームルームに私が訪れると、そこは子どもたちであふれかえっているように見えます。これは、一体どういう子どもたちが、どういう風にすくすくスクールを利用しているのか? 常々漠然と疑問を持っていました。

■8 すくすくスクール利用の目的の多くは、実は「就労支援」では?

さて先日、ある方から、すくすくスクールの児童の利用数について、現況の数字を教えていただく機会がありました。

それによると、すくすくスクールの一般登録(学童以外)児童数は、江戸川区全体で約2万人であるのに対し、学童登録の児童数は4,000人ほどです。ところが一日の参加人数は、4対3で学童登録者の方が一般登録児童より利用数が多いのです。

これを単純に計算してみたところ、学童登録者は「約73%」が日常的にすくすくスクールに来ているのに、一般登録の児童ですくすくスクールに来ているのは「約10%」程度という数字になりました。

さらに、例えば17時までに帰るのであれば、学童登録をしなくても(月額4,000円の学童育成料を支払わなくても)、年間500円の保険料だけですくすくスクールを利用できます。私の周囲には、すくすくスクールの利用目的は就労支援だけれども、学童登録はせず、すくすくスクールを利用している家庭は決して少なくないのです。

つまり、例えばお母さんが17時までに帰宅できる職種であれば、「お母さんはお仕事だから、5時まですくすくスクールにいなさい」と、できるわけです。

ということは、すくすくスクールを実際に「遊びの場」として利用している児童は、どの程度存在するのだろうか?実は本当は、圧倒的に学童クラブ的目的での利用…すなわち「就労支援」としての利用が多いのではないだろうか?そういう疑問がわいてきます。

もちろん工作教室やドッジボール教室とか、一ヶ月に1〜数回程度、ごくたまに行われる短時間の行事で、散発的にすくすくスクールを利用する一般登録の子どももいますから、延べ人数としては一般登録の利用者は多いでしょう。

しかし問題は、日常的に、その事業を必要とするニーズの強さです。そのニーズの強さに応じて事業計画を見直すのが本来の行政の方向性のはずです。さきほど申し上げた数字は、まだ公開資料として手元に来ていませんので、いまのお話はご参考までにということになりますし、私もにわかには信じられない数字でしたので、正式には、もう一度今後、資料が手に入りましたら検討してみます。

またこう言った傾向は、他区の全児童対策事業では状況は違うのかもしれませんし、全児童対策事業すべてに共通する傾向ではないかもしれません。

しかし、全児童対策事業はいったい誰が希望し、実際どのように利用されているのか?一般の子どもが利用したいようなものが本当にできているのか?という根本的な疑問が、どうしても払しょくできません、

さらにそれは、学童保育を必要とする働く親の子どもにとって、学童保育のみの事業より、価値のあるものなのか?ということです。 >

■9 つながりを持ち続け、声を上げ続けること。

全児童対策事業というものは、利用者にとって実態のわかりにくい事業であることは確かです。多様な利用者を含むため、現在、江戸川区の多くのすくすくスクールでは、学童クラブの保護者会は消滅しています。

横のつながり、情報交換がなくなると、すくすくスクールでどういう「育成」が行われているか、特に育成の現場に立ち会えない就労者にとって、全児童対策事業はまったくのブラックボックスになってしまいます。

そして、たとえ事業に疑問や問題を感じても、利用者間に温度差もあるし、横のつながりがいったん解体してしまうと、個人情報保護の関係もあって、組織化はきわめて困難です。

今回の補食廃止に際しては、有志の保護者が集まり、インターネット・街頭署名などを通じて、約5,000筆の「補食廃止反対」の署名を区に届けたと聞いていますが、江戸川区はまったく無反応だったそうです。この署名について、その保護者はある江戸川区議から「いくら署名を集めても、江戸川区外、それから江戸川区内の署名であっても、該当小学校保護者以外の数字はまったく無視されます」と言われたそうです。まさにその通りになったと、その方は言っていました。

それでは、ということで、これまた江戸川区内のとある小学校の学童保護者が、突破口を開くために「保護者の自主運営によって、補食を子どもたちに提供させてほしい」との思いで、なんとその小学校だけの学童保護者のほぼ9割近い署名を集めて、夏休みを前にして江戸川区に自主運営を願い出たそうです。仕事をしながらの保護者たちが、連絡網もない状況で、一人ひとり足で周って集めたと聞いていますので、相当なご苦労だったと思います。

しかし江戸川区の答えは、「却下」だったと聞いています。「すくすくスクールのホームルーム内での、補食実施活動は認められない。やるなら、下校させて別の場所で親の責任でやるように」との説明を受けたとのことで、計画は頓挫してしまったそうです。
(会場から「それができないから預けているんじゃないか」という声あり)。

また他の複数の小学校でも、補食の自主運営について学童保護者から、様々な計画案が江戸川区の教育推進課にあげられましたが、すべて同じ理由で却下されました。現在、江戸川区で保護者による補食の自主運営を実現している学校は、一校もありません。

これまで、江戸川区教育委員会には計6本、江戸川区議会には計2本の、補食に関連する陳情が、区内各地の複数の保護者から届けられました。しかし江戸川区議会では、圧倒的多数の与党から関心を持たれず、また江戸川区教育委員会に出した陳情はすべて却下となり、すべてにおいて「このことで騒いでいるのは、少数の親」という扱いをうけてきました。

すくすくスクールが導入された際、江戸川区区内複数の小学校の保護者がつながって活動を起こしていました。しかし今、それは消えています。いま思えば、この横のつながりをキープしておくことは必要だったのでしょう。しかしなにしろ10年前のことでいかんともしがたいものがあります。板橋ではこの点、今後いかがでしょうか。

現在、江戸川区でこうして声を上げている私たちですが、インターネットによる情報発信力、そしてマスコミにも取り上げられたことなどもあり、江戸川区の全児童対策事業の問題点に、板橋区の皆さんなど外からの関心を持っていただけるようになりました。

また江戸川区教育委員会でも、陳情としては不採択になったものの、ある委員の方から、「補食という児童福祉の問題を、教育委員会が判断するのは管轄外のことではないのか」という発言も聞かれました。

疑問の声を上げ続けることは、たとえ自分たちの子どもが助からなくても、他区の、あるいは未来の江戸川区の学童の子どもの将来をよくするために必要なのではと思いながら、仲間と活動しています。

つたないまとめでしたが、私が本日ご用意させていただいたお話は以上です。

(江戸川区立小学校・保護者:2013/11記)

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